相続の分け方・活かし方遺言と信託の正しい併用術
2026年1月19日

遺言では「誰にどの財産を引き継ぐか」を指定できますが、民事信託を併用することで、遺言では指定できない「相続後の活用方法」も設計が可能です。今回は、遺言と信託の役割の違い、併用のメリットなどを説明します。
遺言は「その後」が見えない?
分けにくい財産でのトラブル
遺言は、相続開始後に「誰に、どの財産を、どのくらい相続させるか」を指定することができる手段です。しかし、すべてを遺言でカバーできるわけではありません。たとえば、「長男に不動産を相続させる」と指定できても、その不動産を売却するのか活用するのか、売却金をどう使うのかなど、相続後の運用までは指定できません。不動産が収益物件であれば、長男が「名義人=管理者」となるため、ほかの相続人に不公平感が生じることもあります。このように、遺言は財産の「分け方」は指定できても、「活用のルール」までは踏み込めないのです。
相続後の管理や活用に関するトラブルは、不動産、自社株、高額な動産(美術品・骨董など)といった分割が困難で、評価がむずかしく価値が変動するものなどで起きることが多い傾向にあります。たとえば、不動産を共有で相続させた場合、将来の売却や建て替えをめぐる話し合いがこじれ、争いになることがあります。また、自社株を後継者に集中して相続させた結果、経営に関与できなくなったほかの相続人が不満を抱くというケースもあります。
相続は「遺言を遺しておけば揉めない」というものではありません。遺言の内容があいまいだったり、財産の分け方が不公平だったりすると、かえって争いの原因となることもあります。
たとえば、「不動産は長男、預金は次男」と指定した場合は、不動産と預金の評価が均等でなかったり、将来的な価値の変動が考慮されていなかったりすることで、感情的な対立が生じる可能性があります。
相続の仕組みは遺言+信託で
想いを確実に届ける準備を
これに対して、民事信託では、財産の承継について、「どの財産を誰に渡すか」だけでなく、いつ、どのように渡すのか、また、その財産を誰が管理し、誰が利益を得るのか、まで細かく設計することが可能です。たとえば、不動産を長男が管理し、収益は母と妹に等分に配分するといった指定も可能です。このように、「管理・運用する権利」と「経済的利益を受け取る権利」を分けて設計できることが、民事信託の大きな特徴です。
さらに、遺言を通じて信託契約を発動させる(遺言信託)ことも可能です。この方法では、遺言で財産の引き継ぎ先を指定し、民事信託では財産の活用方法を管理するという役割分担が生まれ、両者を併用することで、相続対策の選択肢が広がります。
民事信託は柔軟に設計ができる制度ですが、それだけに「誰を受託者にするのか」「誰を受益者にするのか」「最終的に財産を誰に渡すのか」などの事前設計がとても重要です。家族構成や財産の種類、本人の希望に応じてオーダーメイドで相続の仕組みをつくることも可能です。たとえば、高齢の配偶者が残されるケース、障がいのある家族がいるケース、また事業用資産や収益物件を所有しているケースなどでは、遺言と信託を組み合わせることでより安心・安全で円滑な財産承継が可能となります。
遺言は財産の「承継先」を決めるための手段であり、信託は「承継後」の流れを設計できる手段です。特に土地や共有財産などの分けにくい財産を抱えている場合、遺言と民事信託を併用する相続設計が、トラブルを防ぐ有効な方法となります。
※この記事は2025年10月時点の記事となります。その後の法改正で対応が異なってくる場合もございますので、気になる方は一度あすか税理士法人までお問合せください。